意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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(曲がってる……)
『日村写真事務所』。軒先にぶら下がる、ちょっと歪なカメラの形をした木製の看板を見上げ、くすりと笑ってしまった。
いい感じにいい加減なところが、おおらかなコウちゃんらしい。
大量の写真とカメラをキャリーケースに詰め、やってきたのはコウちゃんのオフィス兼住宅。八木山さんと二人で住まう一軒家だ。
レトロな日本家屋の玄関横に据え付けられた、古めかしい「ピンポン」を鳴らし、ガタガタ言わせながら引き戸を開ける。
「こんにちはぁ……?」
「あ! いらっしゃい、明槻さん! どうぞあがって。いま、迎えに行こうかと思っていたところよ。迷わなかった?」
出迎えてくれたのは、ゆったりしたワンピース姿の八木山さんだ。
「はい。教えていただいた目印のコンビニ、ちゃんと見つけられたので大丈夫でした。……お邪魔します」
ギシ、ギシ、と歩くたび鳴る床に、古い寺院を思い浮かべつつ、廊下を進み、畳敷きの部屋に辿り着くのだろうと思っていたら、予想を裏切られた。
フローリングのリビングは、天井の梁が見える和の空間でありながら、家具は洋風。縁側の先には、松の木の傍にバラやチューリップが咲き、葉桜の横にジューンベリーがあり……と和洋折衷の庭が広がっている。
ごちゃまぜでありながら、妙なバランスで成り立っている庭の様子も、自由でマルチな活躍をするコウちゃんらしい。
そんな庭には、ピクニックテーブル、ディレクターズチェアが用意されており、バーベキューと見せかけて、なんと「たこ焼き」の真っ最中だった。
しかも、ねじり鉢巻きをしてせっせとたこ焼きを作っているコウちゃんの横には、意外な人物がいる。
「やっと来たわね! 偲月」
「よぉ」
「シゲオ……と、流星さん?」
「せっかくタコパするなら、大勢の方が楽しいかと思って。少し前まではつわりで苦しんでたんだけど、急に食欲が増しちゃって。いま、たこ焼きにハマってるの」
にこにこ笑う八木山さんに、手土産を渡す。
「あの、これ、レモンゼリーなんですけど、よかったら召し上がってください」