意地悪な副社長との素直な恋の始め方

「え! 気を遣わせちゃった? ごめんね。でも、ありがとう。わたしはこれ冷やして来るから、どうぞ先に食べてて」


八木山さんに促され、縁側に置かれたサンダルをつっかけて、庭へ出る。

若かりし頃、本場大阪のたこ焼き屋でアルバイトをしたことがあるというコウちゃんは、素早くたこ焼きをひっくり返し、皿に取り、と手際がいい。


「どうぞ召し上がれ。秘伝のタレもあるから。どんどん食べて!」

「美味しいわよ」


シゲオと並んで、出来たて熱々のたこ焼きを頬張り、コウちゃんが撮影で訪れた山村で貰った黒すぐりのジュースで舌を冷やし、と忙しくしている間に、八木山さんが戻って来た。

彼女は、ほぼ初対面の流星とわたしを打ち解けさせようと思ったのか、さっそく入社式の話題を振ってくる。


「明槻さんの撮った社内報の写真、社員の間でも評判がすっごくいいのよー! 流星も、すっかり明槻さんのファンよ? うちの部長に秋の人事異動では、ぜったいに明槻さんを引き抜けって命令までしちゃって。ね? 流星」

「ファンじゃねーよ。八木山も抜けるし、使えそうな手駒は多いほうがいいだろ?」

「なーに言ってんのよ? 明槻さんのこと知りたくて、総務に押しかけたのは、誰? 素直じゃないんだから!」

「いってーな!」

「女子社員相手に、自分から関わろうとするなんて、滅多にないことじゃないの」

「俺だって、仕事中に言い寄ってくるような女じゃなければ、普通に関わる」


バシバシ彼の背中を叩く八木山さんと流星が言い合っている隙に、シゲオが小声で話しかけて来る。


「こっちもイケメンで、甲乙つけがたいけれど……朔哉とは、どうなの?」

「どうって……ぼちぼち……」

「ぼちぼち?」

「帰宅が毎晩深夜で、なかなか話せなくて。昨夜は、離島から帰って来られなくなって、泊まりになった」

「そのわりには、ずいぶん冷静ね?」

「ちゃんと連絡くれたし……疑心暗鬼になっていいことなんか何もないから」

「ふうん……あんたがそう思うようになったってことは、プロポーズでもされた?」

「ぐっ……」


鋭すぎるシゲオの指摘に、黒すぐりのジュースを吹き出しそうになった。


「あら。図星?」

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