意地悪な副社長との素直な恋の始め方
自嘲するあまり、つい溜息が漏れそうになったが、八木山さんとコウちゃんによって、せっせと皿へ運ばれてくるたこ焼きが、それを許さない。
「明槻さん、どんどん食べてね?」
「あ、はい」
「カメラマンは一に体力、二に体力だよ! 被写体に辿り着く前に、ヘバってちゃ何も撮れないからね」
たこ焼きをパクパク頬張り、コウちゃんがこれまで遭遇した笑える撮影秘話を聞いているうちに、頭と気持ちを切り替えて、いまを楽しもうという気になってくる。
(ここでうだうだ考えていても、何も解決しない。いまは……たこ焼きに集中しないと!)
コウちゃんの献身により、みんなのお腹がほどよく満たされたところで、流星が縁側に置いてあるわたしのキャリーケースを顎で示した。
「あれ、偲月が撮った写真なんだろ? 見せろよ」
「僕も見たい! ヤギちゃん、そろそろお役御免させてもらってもいいかな? ちょうど材料も使い切ったし」
コウちゃんも流星の要求に乗っかって、八木山さんにお伺いを立てる。
「そうね。わたしもじっくり見たいし。流星、ジョージさん、撤収手伝ってくれる?」
三人がたこ焼き用の鉄板やらピクニックテーブル、ディレクターズチェアを片付けている間に、わたしと八木山さんは室内へ移動した。
大きなローテーブルの上に、キャリーケースから取り出した写真を並べていく。
スマホやデジタルカメラで撮影した分は、オンラインストレージのデータやインスタにアップしたものを見られるよう、タブレットを設定した。
「それにしても、すごい数だな」
「約十年分だから……」
「よくもまあ、これだけ撮っていながら、どこかに発表しようと思わなかったものね」
テーブルの上にひしめき合う写真たちに流星は目を丸くし、シゲオは呆れ顔だ。
「まったくだよ! 素材を売るサイトとか立ち上げれば、お小遣い稼ぎくらいはできたと思うよ? もったいないなぁ……。あ、これいいかも。あ、これも! これも……ね、偲月ちゃん。気に入った写真、欲しいんだけど? ちゃんとお金は払うからさ」
そう言うコウちゃんは、バーゲンセール会場に突入した女性のように、写真を漁っている。