意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「お金? とんでもない! タダでいいです。どうぞ貰ってください」
「ダメダメ! たとえフィルム代にすらならない金額でも、ちゃんと対価は貰いなさい。そうしないと、いつまでもアマチュア気分が抜けないよ」
「いや、わたしアマチュアだし。お金を貰うのはおこがましいというか……」
「どうして? ここにある写真は、偲月ちゃんが心から撮りたいと思って撮ったもので、自分でも納得がいく作品ばかりでしょ?」
コウちゃんに、適当に選んだのではないことを指摘され、ドキッとした。
「……うん」
「自分を信じなきゃ」
「……自分を、信じる?」
「自分を甘やかすって意味じゃないよ? 誰も信じてくれなくても、自分が一番の自分のファンでいてあげないと。ひとは、言いたいことを好き勝手に言うものだし、受け取り方はひとそれぞれだからね。目の前にあるものが、正しく見える人もいれば、歪んで見える人もいる。もっと言えば、まったく見えない人――そこにあることにすら、気づかない人もいる。だからね、偲月ちゃんが撮りたいと思うものを、望んだとおりに撮れたなら、ちゃんと価値があるんだよ。逆を言えば……」
「望んだように撮れなければ、ダメってこと?」
言葉の先を続ければ、コウちゃんは大きく頷く。
「それがプロだからね。確かに、意図していない奇跡のような一瞬を捉えられることもあるけれど……あれは、神様の贈り物だと僕は思ってる。ところでさ、『ひと』を撮ったものはないの?」
「なくは、ないんですけど……」
朔哉との関係を知っているシゲオはともかく、八木山さんと流星もいるところで、キャリーケースの内ポケットに入れた写真を取り出すのは、無理だった。
「もしかして……」
コウちゃんがニヤリと笑ったその時、流星がズボンのポケットから軽快な着信音を鳴らすスマホを取り出し、「ゲッ」と呻いた。
「どうしたの? 流星」
「……課長だ」
「休みの日に課長から電話って、イヤな予感しかしないわね」
八木山さんが鼻に皺を寄せて呟く。
「ああ」
ありありと出たくない様子を見せながら応答した流星は、「はぁ」「ええ」と最初は気のない返事をしていたが、突然「えっ!」と叫んだ。
「スペア用意しないなんて、何考えてんですかっ!?」