意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「え……」
「極秘で来日していたらしい。今回の撮影は、ロケ場所、シチュエーション、モデルの容姿、すべて彼女の意向をもとに決められている。自分が要求したとおりの撮影ができないとなれば、今回の契約自体を取りやめるかもしれない」
「それって……それって、かなりまずいじゃないの!」
八木山さんの言うように、相当にマズイ事態だと思われた。
しかし、流星は余裕たっぷりに「大丈夫だ」と請け合った。
「大丈夫って、ぜんぜん大丈夫じゃないしょうっ!?」
青ざめた八木山さんが反論しても、その余裕は崩れない。
「落ち着け、八木山。代役は、ちゃんと見つかった」
「……見つかった?」
話がさっぱり見えない。
狐につままれたような心地で顔を見合わせるわたしたちに、流星は予想もしなかった解決策を示した。
「日村さんはカメラマンだし、八木山は助手ができる。ジョージはヘアメイクのプロ。花婿役は、一応、モデルの経験もある、俺がやればいい。花嫁役にも心当たりがある。ここから撮影現場までは、車で四十分。十分で用意して出れば、ギリ間に合う。一流デザイナーにパフォーマンスを見せつけるチャンスだと思えば、悪い話じゃないだろ?」
コウちゃんはもとよりフットワークが軽い。「わかった。急いで準備するよ!」と言うなり、バタバタと走り去ろうとして振り返る。
「偲月ちゃんの写真、預かってもいい? あとでじっくり見たいんだ」
「う、うん」
勢いに押され、頷く。
シゲオも、「わたしも京子ママに連絡しないと! 代わりに行ってくれるスタイリストが捕まるといいんだけど……」と電話をかけはじめる。
八木山さんは、「着替えて来る!」と言ってリビングを出て行った。
わたしが役に立てることなどなさそうだと思いつつ、とりあえずキャリーケースに写真たちをしまいこみながら、一応流星に訊ねてみる。
「あの、わたしは何をすれば……?」
流星は、にっこり笑ってとんでもない役目を言い渡した。
「アンタは、キレイなドレスを着て、カメラの前でにっこり笑っていればいい」