意地悪な副社長との素直な恋の始め方
スーパーモデルやら女優やらセレブやらを間近に見ている目の超えたデザイナーが、ド素人のモデルに満足する確率は、限りなく低いと思われる。
(そりゃあ、大事な契約だってことはわかるけど。急場しのぎでも、どうにかしないといけないこともわかるけど。でも……どう考えても無謀だと思うんだけど)
もとから自信はないけれど、不安ばかりが募る。
「準備できたか?」
ノックと同時に現れた流星は、タキシード姿だった。
背が高く、スタイルもいいので、口さえ開かなければイケメンモデルらしく見える。
髪はきっちり整え、メイクは軽くした程度。花婿の顏は撮らないから、それでも十分らしい。
「どうぞ連れてってちょーだい」
「行くぞ」
シゲオからわたしを引き取った流星は、その腕を差し出した。
不本意ながらも掴まったのは、そうしなければドレスの裾を踏んづけて転ぶ可能性が大だからだ。
「デザイナーは、もう……?」
「あと十分くらいで着くと連絡があった」
「じ、十分……」
「んな青い顔すんな。重要なのはドレスだし、気心知れた日村さんなら上手く撮ってくれる」
「そう、だといいんだけど……」
流星と連れ立って、オーベルジュの庭へ出ると、真剣な表情でレンズを覗いていたコウちゃんが相好を崩した。
「偲月ちゃん! うわ、キレイだねぇ……なんだか、娘を嫁に出す父親のような気分だよ」
「あ、りがとうございます」