意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「そうですか。何かお困りのことがあれば、遠慮なく担当にご連絡ください。全力でサポートさせていただきますので」
「いやぁ、そう言っていただけると心強いです。しかも、ウエディングドレスの撮影にも使っていただけるなんて、光栄です」
高野さんと握手した朔哉は、後ろにいた外国人女性を紹介する。
「こちら、モデルが着用しているウエディングドレスをデザインされたクレアさんです。ぜひ、撮影現場を見学したいというので、立ち寄らせていただいたんですが……」
「えっ!? ご本人なんですか? すごくステキなドレスだなぁって見惚れてたんですよ!」
奥さんの言葉を芽依が訳して伝えると、クレアさんは「アリガトウゴザイマス」とはにかんだ笑みを見せた。
そんなクレアさんに、高野さんがわたしにはさっぱり理解できない外国語で話しかけると、彼女は目を見開き、勢いよく話し出す。
「…………?」
「……! ……、……!」
あっという間に打ち解けた二人の様子を見て、朔哉はスケジュールを遅らせるなとばかりに、広報課長を促した。
「澤村課長。こちらに構わず、撮影を進めてくれ」
「あ、はい! 明槻さん、日村さん、お願いします」
「はいはーい。じゃ、始めようか。偲月ちゃん」
「は、はい」
(ど、どうしよう……ますます緊張してきた……)
もともと、度胸がありそうに見えて、まるでないのがわたしだ。
緊張のあまり足が震え、歩き方もぎこちなくなる。
コウちゃんの指示にしたがって、背中を向けたり、ベンチに腰掛けたり。
ドレスの美しさが引き立つよう、様々なポーズを取ってはみたが、自分でもわかるほどダメダメだった。
上手くやらなくてはと思えば思うほど、身体は固くなり、仕草も表情も強張っていく。
わたしの緊張を解そうと話しかけるコウちゃんの声も、焦った耳には遠く聞こえる。
(こんなんじゃ……大事な契約なのに、わたしのせいでダメになったら……)
本職のモデルではないのだから、できなくてもしかたない、なんて言える状況ではない。
いっそのこと、背格好が似ている芽依に代わってもらったほうがいいのでは、と思い始めた時、「休憩にしよう」と声がかかった。
まだ、撮り始めて三十分も経っていない。
早すぎるだろうと思って顔を上げたら、目の前に朔哉がいた。
「来い」
「え、え……」