意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「さ……副社長」
「クレアが二人に紹介してほしいそうだ。アカツキ シヅキ、リュウセイ ハジメ。……、……」
冷ややかなまなざしで流星を威嚇した朔哉は、わたしにはさっぱり理解できない外国語でデザイナーのクレアさんに何事かを説明する。
『……、クレア! …………!』
三十代くらいと思われるクレアさんは、好奇心に目を輝かせてこちらを見つめていたが、ほっそりした手を差し出した。
たぶん、彼女も自己紹介してくれたのだろうと思い、「明槻 偲月です」と名乗りながら握手をすれば、いきなりハグされる。
(え? え? なに?)
『……? ……っ! …………!』
興奮しているクレアさんは、早口で何事かをまくしたてているが、さっぱり理解できない。
しかも、なぜかわたしの頬を両手で包んでじっくり顔を観察し、少し離れて全身を観察し、信じられないというように首を振っている。
(どういうこと……?)
助けを求めて朔哉を見たが、何とも言えない顔をしている。
誰か状況を説明してほしいと視線をさまよわせ、クレアさんの肩越しにこちらを見つめる芽依と目が合った。
たぶん「笑み」を浮かべているつもりなのだろうが、引きつった頬や歪んだ唇、下がり気味の眉は、笑顔より泣き顔に近い。
(……芽依?)
どうかしたのかと気になったが、朔哉は芽依とクレアさんを先に行かせてしまい、呼びかけることもできなかった。
「高野さん、次の予定があるので、我々はこれで失礼させてもらいますね。小さなことでも何かご不安があればお知らせください」
「ありがとうございます」
高野さん家族に気配りの言葉をかけた朔哉は、コウちゃんとシゲオに頭を下げた。
「日村さん、今日は急な依頼にもかかわらず引き受けていただき、ありがとうございました。ジョージも、協力してくれて助かった」
「やめてくださいよ、副社長。僕としては、娘のような偲月ちゃんをモデルに撮影できて、ある意味役得でした」
「わたしも、いい腕試しになったわ」
「雑誌やWEBに写真を掲載する際には、撮影スタッフの名前を明記させていただきます。今後、仕事の幅を広げるのに少しは役に立つと思うのですが……。澤村課長、ドラフトは来週中に用意してほしい。できる限り早く発表する」
「かしこまりました!」
「偲月」
「は、はいぃ!?」
この流れで話しかけられるとは思っておらず、驚きすぎて声が裏返った。