意地悪な副社長との素直な恋の始め方
が、ソファーでこんなことをするのは、もっと恥ずかしい。
朔哉は断じて草食系ではないが、これまではいたってノーマル――最終的にわたしを抱くのは、いつもベッドの上だった。
「ちょ、さ、朔哉、ベッド……」
「そろそろ、ベッド以外の場所で楽しむ方法を覚えてもいい頃だ」
「え? ヤダ!」
慌ててジタバタし、抵抗すればするだけ、彼を煽るのだと気づいた時には遅かった。
わたしの口から放たれるはずだった言葉と呻き声は、彼によって呑み込まれて消える。
噛みつくようなキスは、そのうちわたしの耳や首筋、肩へと攻撃の対象を移し、微かな痛みとつま先が痺れるような快感をもたらす。
しかし、何かが頭の片隅に引っかかり、集中できない。
余裕がなく、鬱屈したものを吐き出したがっているような朔哉の行為は、あの日――彼の秘密を知り、わたしが自分の想いを自覚した日を思い出させた。
「ねえ、朔哉……どうしたの? 何か、あった?」
ぴたりと動きを止めた朔哉は、ふっと息を吐いて脱力した。
わたしの首筋に顔を埋め、くぐもった声で告げる。
「クレアとの契約についてプレスリリースを配信するタイミングで、偲月との婚約も発表することになった。素人の偲月がモデルだとわかれば、なぜなのか取り沙汰される。その前に発表してしまえば、余計な探りを入れられずに済む。どうせ、契約に至った経緯で話さざるを得ないし……」
「それはそうかもしれないけど、でも」
先回りして婚約を公表すべきだという朔哉の言い分は理解できた。
しかし、公表する前に、わたしたちの口から伝えるべきひとたちがいるだろう。
朔哉は、わたしが指摘するまでもなく、「もう連絡した」と言った。
「明日、夕城の家に来てくれるよう紗月さんには連絡した。一応、俺の母親にも連絡したが、そっちはスケジュール次第だな。芽依は……今日の撮影で気づいたとは思うが、改めて、明日みんなまとめて報告する」
「まとめてって……それで、いいの?」
このまま、話を進めてしまえば、芽依の本音を確かめる機会が――朔哉が芽依の本音を知る機会が、失われてしまうかもしれない。
そう思った。
たとえ心の底では、わたしと朔哉の結婚を喜んでいなくても、父親や元継母の前でそんな態度を取れるほど、芽依はワガママでも非常識でもないだろう。