意地悪な副社長との素直な恋の始め方
宣戦布告
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「いらっしゃい! 偲月ちゃん、お兄ちゃん。紗月さんたちも、来てるよ」
翌日、朔哉と一緒に訪れた夕城家では、芽依が出迎えてくれた。
「もうちょっとで夕食の準備ができるから、それまでみんなとお茶でも飲んで待っていてくれる?」
ニコニコしている芽依に、変わった様子は見受けられない。
いきなり気まずい展開にならずに済んで、ほっとした。
「夕食の準備って……芽依が作ったの?」
「そうだよ。中山さんにも手伝ってもらっているけれど。研修していたホテルには、いろんな国出身のスタッフがいたから、みんなで各国の家庭料理を教え合っていたの。今夜は、文字通り多国籍料理。ワインも各国各種揃えたし、たくさん食べて、飲んでね!」
久しぶりに足を踏み入れたリビングは、芽依が現地で買い求めたというアンティーク調の家具によって、温かみのある空間に様変わりしていた。
優美な曲線を描くソファーには、久しぶりに見る母と元継父、そしてどこかで見たことがあるようで、それでいて初対面のひとが座り、和やかな雰囲気で談笑している。
「主役がお出ましのようね」
わたしと目が合った母が微笑むと、母の隣に座っていた女性が目を見開いて立ち上がった。
着心地の良さそうな黒のマキシワンピース。
潔い黒髪のショートカットに、アクセサリーは大ぶりなイヤリングだけ。
華奢な身体から儚げな雰囲気を漂わせ、シンプルなモノクロの写真から抜け出て来たような透明感を持つ人は、とても美しい。
「紗月さんにそっくりじゃないの!」
「そうねぇ。同性だから、月子さんと朔哉くんよりは、似ているかもしれないわ」
母とずいぶん親しげな様子のひとは、わたしに歩み寄り、白く華奢な手を差し出した。
「偲月さん、初めまして。朔哉の母、新井 月子です」
(新井月子って……女優の? 本物?)