意地悪な副社長との素直な恋の始め方


その名前は、つい最近耳にしていたが、驚かずにはいられなかった。


「あら? もしかして、朔哉はわたしのことを話していなかったのかしら?」


彼女は咎めるような視線を朔哉へ向ける。
そんな仕草もまた美しく、溜息が出そうだ。


「そのうち、話すつもりだったんだ」

「どうだか。秘密主義なのは、父親似ね」

「僕は、朔哉ほど徹底してないよ。偲月ちゃんとお付き合いしていたなんて、まったく気づかなかった」


夕城社長の抗議も、即座に却下される。


「それは、あなたが鈍いだけでしょう」

「そんなことはないと思うけど……」


言い合う二人を母は笑いながら眺めている。
元夫と元妻の二人。何とも奇妙な関係だ。


「どうぞ座って」


促されて、朔哉と共に二人掛けのソファーに座ると、接待役を引き受けてくれている芽依が訊ねた。


「二人とも、コーヒーでいい?」

「ああ」

「うん。ありがとう、芽依」

「それにしても、不思議な縁ね。紗月さんの娘とわたしの息子が結婚するなんて」

「そうねぇ」


今日この場にいるのは、朔哉との婚約、結婚を報告するためではあるが、頭に浮かぶ疑問符をどうにかしないことには、落ち着かない。

大女優を前にし、ドキドキしながら訊ねる。


「あの……母とはどういう関係なんですか?」

「昔、映画で共演したことがあるのよ」

「共演?」


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