意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「もー、月子さん。美談にするのやめてくださいってば! 半分、ヤケになってたんですよ。結婚直前に相手がわたしの上司と浮気して、破談になって。そんな時に祖父が亡くなって、親戚があーだこーだ言い合いしているのにイライラして、気がついたら『わたしが継ぐ!』って、啖呵を切ってただけで……」
「大変な目に遭って辛かったとは思うけれど、結婚する前にそういう男だって、わかってよかったのよ。ひとの本性は、長く付き合ったからといって見抜けるものではないわ。それに……別れが、新たな出会いをもたらすこともあるでしょう?」
そう言う月子さんは、柔らかな笑みを店主の彼女へ向ける。
「そうですね。ここで暮らし始めてから、自分でも肩の力が抜けて、自然体でいられるなって思いますし。こうして月子さんのような、ステキな人とも出会えましたし」
「あら。一番のいい出会いはダンナさまと、でしょ?」
「……そうですけど」
頬を染めてはにかんだ笑みを浮かべた彼女は、とても幸せそうだ。
何がどうなって、ひどい失恋から幸せな結婚へ至ったのか興味はあるが、ほかほかのオムライスを見捨ててはおけない。
黄金色をしたとろふわなオムライスは、タマゴが美味しいのはもちろんだが、チキンライスのケチャップ味にノスタルジーを感じる。
お腹が満たされたあとは、ヒヨコの絵がついた瓶のプリンを持って外へ。
ちょうど小屋の横にある、囲いの中のニワトリが眺められるベンチに移動した。
「ここへ来ると、日常のいろんなしがらみやイライラが消えるの」
目を細めて呟く月子さんに、同感だ。
視界を埋めるたっぷりの緑、青い空、ニワトリたちの鳴き声に包まれた平和な場所は、「楽園」と呼ぶに相応しい。
しかし、前置きもなく、告げられた言葉にプリンを掬う手が止まった。
「芽依さんは、夕城が愛した人の子ではあるけれど、彼の子ではないの」