意地悪な副社長との素直な恋の始め方
(……え? どういうこと? わたし、そんなこと言ってないよね?)
心臓が、一気に鼓動を速め、深く息が吸えなくなる。
『偲月は、本気で言ったわけじゃないさ。これからは、偲月と一緒にいられる時間が増えるし、いままでしてやれなかったことの埋め合わせもできる。だから、芽依の誕生日を二人きりで過ごすくらいで、とやかく言うことはないと思うよ』
『本当? じゃあ、これからも二人きりで会える?』
『ああ』
『よかった。でも……偲月ちゃんが羨ましいな』
『芽依……?』
(これ以上、聞かない方がいい。早く、電話を切らなきゃ……)
悪口、妬み、批判――本人のいないところで語られる話には、たいてい悪意が混じっている。
転校して、何度もイヤガラセやイジメを受ける中、そういう場面に遭遇するのは日常茶飯事だった。
自分を守るためには、耳を塞ぎ、距離を置くのが一番だ。
そうわかっているのに、震える手が動いてくれない。
訝しげな朔哉の問いかけに、しばらく黙り込んでいた芽依は唐突に、しかしきっぱりと告げた。
『好きなの』
『…………』
今度は、朔哉が沈黙する番だった。
『血の繋がりがないと知らなかったから、お兄ちゃんへの気持ちを打ち明けられなかった。でも、』
『…………』
『いまはもう、二人とも本当の兄妹じゃないって知っている。気持ちを隠す必要なんかないと思わない?』