意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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時計は、見なかった。
日付が変わる瞬間なんて、知りたくもなかった。
ただ、玄関のドアが開く音に耳を澄ましているうちに、いつの間にかウトウトしていたらしい。
気がつけば、ソファーで横になっていた。
部屋の中は、しんと静まり返り、わたし以外の誰かがいる気配はない。
窮屈な姿勢を続けて強張った身体の痛みに顔をしかめ、カーテンを閉め忘れた窓の外を見る。
すでに、夜は明けていた。
床に放置したままの、画面がひび割れたスマホは、悲惨な状態でもきちんと役目を果たし、朔哉からのメッセージを受け取っていた。
『芽依が飲み過ぎて具合が悪い。オヤジが留守で、ひとりにしておけないから、今夜は夕城の家に泊まる』
「は、」と乾いた笑い声がひとりでに口からこぼれ落ちる。
具合が悪くなった妹を介抱するため実家に泊まるのは、不自然なことじゃない。
むしろ、模範的な優しい兄の行動だった。
泊まったからと言って、二人の間に何かがあったなんて、証拠はない。
けれど、
信じられなかった。