意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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現在、コウちゃんがどんな仕事をしているのか、助手とはどんなことをするのか、といった具体的な話をしているうちに、あっという間にお昼時になってしまった。

コウちゃんも八木山さんも、当然のごとくランチをごちそうしようとしてくれたが、さすがにそこまで図々しくはなれず。
近々、また立ち寄ることを約束してお宅を出た。

ガラガラとキャリーケースを引きずり、駅へと歩きながら、答えの出ない問いを繰り返す。


(やりたい……でも、やれる? 撮りたい……でも、撮れる?)


期待と不安が入れ替わり、立ち替わり、襲って来る。

コウちゃんに相談したことで、何となく「カメラ」を仕事に結びつけるための道筋はついた。

ありがたくコウちゃんの厚意に甘えさせてもらえば、助手をしながら撮影技術を学びつつ、業界の伝手を得られるだろうし、月子さんの撮影も相談できる。

まさに願ったり叶ったりだ。

問題があるとすれば、朔哉の忙しさが落ち着いたとしても、一緒に過ごす時間が少なくなること。
すれ違いの生活を送る可能性大だ。

報道カメラマンではないから、いつでもスタンバイしている必要はないけれど、こちらのスケジュールではなく、モデルやクライアント、コウちゃんの都合が優先されるのが当たり前。深夜や早朝、泊まりがけの撮影もあり得る。

ほんの少し前なら。
素直になりたいと思い、そのために朔哉との関係を最優先したいと考えていた時ならば、二の足を踏んだだろう。

でも、いまはむしろその逆だ。
ほかのことを考えられないくらいに、夢中になれるものがほしかった。

撮影に没頭すると、大抵のことは二の次になる。
朔哉と芽依がどうしているのか、考えることもなくなる。

考えなければ、何も感じないでいられる。

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