意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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月子さんが送ってくれた地図が示す撮影場所は、高級住宅街の中にある一軒家だった。
開け放たれた門から豪邸へと続くアプローチに、何台も停まる白い大きなバンや忙しく立ち働く大勢の人がいなければ、ここで映画の撮影が行われているなんて思いもしないだろう。
向かう途中で月子さんに連絡しておいたので、立ちはだかる警備員に怪しまれることなく、門を潜ることができた。
大きな声を張り上げて指図する人、何やら見慣れぬ道具を持って走り回る人の姿が垣間見える。
室内の撮影ではないようだと思い、広い庭の方へ足を向けかけたら、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「偲月?」
「え? 流星、さん?」
そこにいたのは、ジーンズにTシャツ姿の流星。
まさか月子さん以外の知り合いに会うとは思っていなかったので、心底驚いた。
「おまえ、何してんだよ? こんなところで。関係者以外、立ち入り禁止だぞ?」
わざとらしくいかめしい顔をするその口元は、笑みに緩んでいる。
「わたしは月子さんに会いに……。流星さんこそ、どうしてここに?」
「俺は、オヤジの手伝い。撮影がある週末は、しょっちゅう呼び出される」
「……オヤジ?」
「流星 天。只今絶賛撮影中の映画監督だよ」
「は? え? お父さんが、映画監督なんですか?」
「そ。売れねー映画ばっかり撮ってるけど」
「…………」
映画は、もっぱらハリウッドものしか見ないので、邦画の監督なんてアニメで有名なひとくらいしか知らない。売れない映画ばかり撮っているという言葉が、はたして本当かどうか、真偽のほどはわからなかった。