意地悪な副社長との素直な恋の始め方

「ま、今回は新井月子が主演だし、脚本も悪くないから、ソコソコいけるんじゃないかとは思うけど。で、月子さんに会いに来たって? 知り合いか?」

「え、ええと、わたしが、というよりもさ……その……」


朔哉が月子さんの息子であると言っていいものかどうかわからず、言い淀む。


「偲月さん!」


わたしを不審のまなざしで見つめる流星から救ってくれたのは、月子さん本人だった。


「無事辿り着いたのね? よかった。ごく普通の住宅だから、迷っているんじゃないかと心配で……」

「こんにちは、月子さん。門のところに警備員がいたので、すぐわかりました」


どういう役どころなのかは知らないが、月子さんはエプロン姿でいかにも主婦といった感じだ。

しかし、どんな服を着ていようと、その美しさに変わりはない。眉根を寄せ、心配そうに見つめられるとドキドキしてしまう。


「ねえ、偲月さん。体調が優れないの? 何だか顔色があまり良くないけど……」

「えっ! いえ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけで」

「その大荷物はどうしたの? まさか家出……」


朔哉の家に帰りたくない気持ちを見透かされたようで、ギクリとしてしまったが、慌てて否定する。


「ち、ちがいます! これは、コウちゃ……日村さんに預けてた写真を引き取って来ただけで!」

「写真? ぜひ見たいわ!」

「あの、でも、プリントしてなくて、フィルム状態で……」

「じゃあ、プリントするわ! あ、でも、細かな指示とか必要なのかしら?」

「一応、前にプリントした時の指示を書いたメモも入ってますけど……」

「それなら大丈夫ね。とにかく、まずはざっと見てみたいから。マネージャー! このキャリーケースに入ってるもの、全部プリントしたいの。近くに、頼めるお店あるかしら?」


月子さんに呼ばれて小走りにやって来たのは、三十代と思われる眼鏡をかけた男性だ。


「プリント? 写真ですか。駅前に行けば、あると思いますけど……」

「じゃ、お願いね?」

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