意地悪な副社長との素直な恋の始め方
パタパタと走り去る月子さんを見送る流星は、「あれで五十過ぎとか、ありえねぇ」と呟いた。
同感だ。
「偲月は、副社長が月子さんの息子だって、知ってたのか?」
「ううん。ついこの間、知ったばかり」
「言われてみれば似てるけど、言われなきゃ気づかねぇだろ……。それに、元兄妹? つーか、付き合ってんだよな?」
「え、や、ええと……」
「ごまかしても無駄。入社式の時といい、この前のウエディングドレスの撮影の時といい、アイツ、独占欲出しまくりだった」
「……の、ノーコメント」
「プレスリリースまではオフレコだろ? わかってるって。しっかし、会社とプライベートの差がひでぇな。目の下、クマできてんぞ? しかもノーメイク? ねぇわ」
「えっ!? 嘘っ!?」
一応シャワーをしてから出て来たけれど、ロクに鏡を見ていなかったので、自分がいまどんな顔をしているのか把握していなかった。
「ちょうどシゲオがいるから、塗ったくってもらえよ。少しはマシになるだろ」
「は? シゲオ?」
ここで耳にするとは思っていなかった名を聞いて、驚く。
「色んなヘアメイクの勉強がしたいっていうから連れて来てやったんだよ。担当にグイグイ質問しまくって、挙げ句の果てにちゃっかり助手してる」
(シゲオらしい……)
つい先日知り合ったばかりの流星との縁を、さっそく有効活用しているのはさすがだ。