意地悪な副社長との素直な恋の始め方
流星に連れて行かれたのは、広い庭の片隅。
シゲオは、日よけのパラソルの下で、女性スタッフと談笑していた。
「シゲオ! ブサイクな偲月をどうにかしてやってくれ」
「は? ブサイクな偲月? アンタどうしてここに……って、ちょっとなんて顔で出歩いてるのよっ!?」
最初、わたしを見て目を丸くしていたシゲオの顔が、みるみる怒りの形相へと変わる。
「まさか、その顔で公共交通機関を利用したんじゃないでしょうね? 信じらんないっ!」
怒り心頭のシゲオに、小声で叱られた。
撮影現場でなければ、大声で喚き散らしたかったにちがいない。
「こっちに来なさい!」
有無を言わさず少し離れたところにある枯れた噴水まで連れて行かれ、その縁に座らされた。
「アンタは、ちょーっと目を離すと何かしらトラブルが発生してるわね。で、いったいどうしてこんなところに出没してるのよ? それに、朔哉と何があったの?」
「月子さんは、朔哉のお母さんで。ブサイクなのは……もともとだし」
シゲオに、何もかも打ち明けてしまいたい衝動に駆られたけれど、血は繋がっていないが、兄妹として育った二人が恋仲……だなんて、軽々しく口にできる話ではない。
「新井月子が朔哉の母親? それはまた……あれだけイケメンなのも納得ね。で、もともとブサイクなのが、さらにブサイクになってるのはどういうわけよ?」
「ひ、ひど……」
「朔哉が浮気でもしたわけ?」
「え、ど、どうしてそれを……」
「ついこの間、プロポーズされて浮かれてたのが、そこまでブサイクになるってことは、よっぽどでしょ。略奪でもされたの?」
サヤちゃんがCIA並みの情報網を持っているなら、シゲオはFBI並みの敏腕捜査官。プロファイリングもできそうだ。
「略奪……というか、もとからむこうが本命だったわけで……」
「元サヤならぬ、忘れかけてた恋心に火がついたパターン? で、決定的な浮気の証拠でも見たわけ?」
「……見ては、いないけど」
「じゃあ、本人が自白したわけ?」
「……してないけど」
歯切れの悪いわたしの返事に、シゲオは大きな溜息を吐く。
「それじゃ、単なる憶測じゃないの。裏も取らずに有罪と決めつけるなんて、魔女裁判かっ!」