意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「だ、だって、電話……告白されてるの、聞いた」
「それ、相手の女からの電話だったんじゃないの? そんなの罠に決まってるじゃない。告白された朔哉の返事は聞いた? アンタのことだから、聞いてないんでしょ」
「で、でも、帰って来なかった……し」
「連絡は?」
「……あった、けど」
「でも、アンタからは連絡してない、と」
「うん……」
シゲオは、深々と溜息を吐いた。
「完っ全に、相手の術中にハマってるわね。相手の女、ビビリのアンタはその場で朔哉に確かめられないと踏んでたんでしょ。それに……アンタは、朔哉がいくら浮気していないと言っても信じられない。それも見透かされてたんじゃないの?」
図星だった。
朔哉が何を言おうと信じられない。
芽依が、何もなかったと言おうとも、信じられない。
憶測と想像で、ありもしない事実をあると思い込み。
偶然の出来事を意図したものだとみなし。
真実を語った言葉を嘘だと決めつける。
そうして、今回は何もなかったとしても、次は? この先は? そう思い続けてしまうだろう。
わたし自身が変わらなければ、そのスパイラルから抜け出せない。
わかっている。
けれど、変われる気がしない。
どうすれば変われるのか、わからない。
「どうせ、奪い返しに行けと言っても、アンタには無理でしょうし……取り敢えず、そのブサイク面を何とかするのが先ね。大女優の嫁が、そんな顔を平気でさらしているなんて、許されないわっ!」
優しく化粧水をパッティングされ、保湿クリームを塗りたくられ、コンシーラーやコントロールカラーなどを絶妙な塩梅で駆使される。
シゲオのしなやかな指に触れられる気持ちよさと寝不足が相俟って、ウトウトしそうになりながら半分意識が飛んだ状態で十五分。
鏡に映し出されたわたしは、普段より表情が明るくさえ見えた。
「さすがシゲオ……」
「これでちょっとは気分も上向くでしょ。メイクは、粗を隠すだけじゃない。元気のない自分を励ますこともできるのよ」