意地悪な副社長との素直な恋の始め方
別れという選択肢
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「ここでいいのかな?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。あの、月子さん、見学に誘ってくださって、ありがとうございました」
朔哉のマンションの前で車を停めたマネージャーさんと横に座っていた月子さんに、改めてお礼を言う。
「こちらこそ、来てくれてありがとう。何か、得るものがあったならいいんだけど」
「映画とカメラは、出来上がるものは動と静でちがっていますけど、レンズを通して表現するのは同じですし、カメラワークとか、構図とか、共通する部分もたくさんあるし、すごく勉強になりました」
撮影の技術については主に流星が説明してくれたが、月子さんが監督に紹介してくれたので、今回の映画について直接聞くこともできた。
月子さんが演じるのは、大女優でありながら、私生活では孤独だった女性の一生だ。
一度は挫折した女優が、結婚、離婚などの紆余曲折を経て、再び女優に挑戦し、成功を掴み取り、最期は孤独な死を迎えるまでを描く。
映画の前半部分、挫折して結婚するまでは若手女優が演じるものの、長さとしては全体の三分の一ほど。主演はあくまで月子さんだ。
最期はともかくとして、どこか月子さんと重なるストーリーは、その女優人生を脚色した作品だと感じてしまう。
ノンフィクションではない。でも、フィクションとも言い切れない。
月子さんは「あくまでもお芝居よ」と言っていたけれど、特別な思い入れがあるのだと思われた。
映画の公開と前後する形で自伝を発表する予定だというし、何より月子さんの女優デビュー作は、流星監督の映画。女優人生最後となる作品に、流星監督の映画を選んだのは偶然ではないだろう。
「少しでも偲月さんのお役に立てたなら、よかったわ。あとで撮影スケジュールをメールするから、いつでも見学に来てね? 流星監督は見学大歓迎の人だし、週末の大がかりな撮影にはハジメくんもいるし。シゲオ……ジョージくんも、ヘアメイクのアシスタントに入ることになったし、気軽に来られると思うんだけど?」
「そうですね。室内での撮影も見てみたいです」
シゲオは、わたしと朔哉の件を気にかけてくれてはいたが、無理に聞き出そうとはせず、「そのうち、ナツの顔を見に来なさい」としか言わなかった。
たぶん、わたしが洗いざらい話せないことをわかっていたからだろう。
それに、実際忙しいらしく、夜に別の仕事が入っていると言って、慌ただしく帰って行った。
「もし、偲月さんがスタッフの様子とか、撮影中ではない俳優の姿とか、カメラで撮りたいものがあれば、流星監督に話してみるけれど……?」
上目遣いでそう言う月子さんは、わたしが見学に来る前に、コウちゃんのところへ立ち寄った理由を察している。
もう、自分の気持ちをごまかせなかった。