意地悪な副社長との素直な恋の始め方
芽依は、驚いた顔でわたしと月子さんを交互に見遣る。
「こんにちは、月子さん。どうして、偲月ちゃんと……?」
「こんにちは、朔哉、芽依さん。ちょっとお邪魔させてもらうわね?」
先ほどまでの怒りを微塵も感じさせない柔らかな声音と笑みを二人へ向けた月子さんは、固まるわたしの腕を取って、ズカズカと部屋へ上がり込んだ。
「あら。夕食の準備中だったの?」
キッチンには、いくつかの食材が用意されていて、これから料理をしようとしていたことが見て取れた。
「芽依さんは、よく朔哉のために料理してくれているの?」
「あ、いえ、いつもではなくて、偲月ちゃんがなかなか帰って来ないから……」
「そう。二人ともスーツ姿ということは、お仕事?」
月子さんの指摘で、初めて二人の服装に気がついた。
「ああ。海外支社が進めていた買収交渉でトラブルがあって、半日会議で潰れた」
「大変だったわね。それで、疲れた朔哉を心配して、芽依さんは付き添っていてくれたのかしら?」
「そういうわけではなくて……偲月ちゃんに、謝りたくて」
芽依は眉尻を下げ、見るからに申し訳なさそうな表情で、わたしの手を握る。
「ごめんね? 偲月ちゃん。昨夜、わたしが飲み過ぎちゃったせいで、お兄ちゃんが帰って来られなくなって。誕生日に、わたしとお兄ちゃんが二人きりで過ごすのがイヤだって言ってたのに、朝までなんて……きっとすごくイヤな思いをさせちゃったよね? だから、お兄ちゃんに何も言わずに、出かけたんだよね?」