意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「俺と芽依は兄妹なんだ。何かが起きるはずがないだろう? 何を疑う必要があるんだ? 信じろよ」
まっすぐにわたしを見つめて言い切る朔哉が、嘘を吐いているとは思わなかった。
できることなら、信じたかった。
でも、信じられなかった。
「……無理なの」
「無理じゃない」
「できないの……」
「偲月! これから、芽依は偲月にとっても『妹』になるんだぞ?」
「……ちがう」
「何を……」
「本当の、妹じゃない」
「だから、それは……」
「血が繋がっていないなら、妹じゃないでしょう?」
「…………」
驚きと動揺からか、朔哉が言葉に詰まる。
わたしと芽依の血が繋がっていないことを指しているとも取れるが、彼と芽依の血が繋がっていないことを指しているようにも取れたからだろう。
真実を明かすなら、いま、このタイミングをおいてほかにはないように思われた。
けれど、朔哉が口にしたのは、キレイゴトにしか聞こえない言葉だった。
「血が繋がっていなくても、『妹』で『家族』だろう?」
包み隠さず、昨夜何があったのかを話してほしかった。
芽依と秘密を共有してほしくなかった。
わたしの知らない朔哉を、芽依が知っているなんて、耐えられない。
「……信じられないの」
「どうすれば信じられるんだ? 芽依と一切接触しなければいいのかっ!? 家族の縁を切ればいいのかっ!?」
「そうじゃない」
「偲月!」
朔哉は、家族である芽依を切り捨てられない。
だから、変わらなければならないのは、信じなければならないのは、わたしだ。
でも、できないことをできるとは言えなかった。
言いたく、なかった。
言った瞬間、わたしの中の大事な何かがなくなる気がした。