意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「あ、そうそう、鞄も必要ね!」
数ある鞄の中から、一番シンプルなものを選んだら、なんとXX・XXローラン。
わたしの一か月分のお給料でも買えるかどうか。
そこに、バーゲンセールで買った五千円の、ほぼ中身すっからかんのお財布を入れる意味はあるのか、疑問だ。
わたしがスリなら、財布より鞄を狙う。
「うん、完璧! やっぱり、女の子はいいわねぇ。着せ替えが楽しめるもの。今度、一緒にお買い物に行きましょ?」
そう言ってはしゃぐ月子さんに、きっと彼女が行きつけにしているようなお店は敷居が高すぎてわたしにはまたげない、と思っていたらインターフォンが鳴った。
「お迎えが来たみたいね? はーい、いま行きまーす!」
(お迎え……って?)
首を傾げつつ、月子さんの後をついて玄関へ行き、扉の向こうにいた人物を見て驚いた。
スーツ姿の男性は、知っている。
映画監督の息子で、同じ会社の広報部所属。フルネームは、流星一。
しかし、その両脇にいる天使のようにかわいらしい、双子と思われる四、五歳くらいの女の子たちとは、初対面だ。
(流星さん……まさか……パパだったのっ!?)