意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「あら、無理じゃないわ。二人が、ハジメくんやお母さんの言うことをよく聞いて、お友だちと仲良くして、ピアノのお稽古やお勉強をがんばれば、わたしなんかよりずうぅっとキレイでステキな女性になれるわよ?」
そう言って微笑む月子さんは、まさに女神。
双子は頬を赤くして、コクコクと頷いた。
「じゃあ、がんばる」
「わたしも」
「一件落着だな。行くぞ、偲月」
やれやれと言いたげに溜息を吐いた流星に促され、そもそも何故彼がここに現れたのかがわからず、戸惑う。
「えっと、あの……」
「ハジメくんは、同じここのマンションに住んでるの。いわばお隣さん。彼の義理のお姉さんが脚本家で、ひとりで双子を育てている彼女をサポートしているのよ」
「サポートなんて、なまやさしいもんじゃない。下僕状態で、コキ使われてる」
そう訂正した流星は、大人しくなった双子を下ろし、せがまれるままに手を繋ぐ。
どこからどう見ても、パパだ。
(お義姉さんがひとりで育ててるってことは……離婚? でも、元義理の姉を助けるのは不自然なような……)
いまいち呑み込めずにいたら、あっさり流星が事情を説明した。
「こいつらの父親は、俺の兄貴。二年前に、亡くなったんだ」
「…………」
咄嗟に何と言っていいかわからず、言葉に詰まる。
しかし、動揺するわたしを慰めるように、双子の女の子はにっこり笑った。
「あのね、ミミとナナのパパはお星さまになったけど、ハジメくんがいるから、寂しくないんだよ」
「ママは、ハジメくんはパパよりイケメンじゃないけど、かぞくだから許すって!」
「どんだけ上から目線なんだよ、あの女……」
流星は、舌打ちしでもしそうな顔で呟く。
「でも、ミミは、ハジメくんはそこそこイケメンだと思うの!」
「ナナも! ねえ、シヅキちゃんはどう思う? ハジメくんはそこそこイケメンだと思う?」
そこそこよりは、断然レベルが高いイケメンだと思うが、ヘタに褒めればせっかく機嫌が直った二人を刺激しかねない。
かといって否定するのも、それはそれで本人のプライドを傷つけるだろう。
しかし、朔哉を基準にするとイケメンと呼べる範囲が恐ろしく狭まる。
いろいろ考えた結果、同意することにした。
「う、うん、そう思う」