意地悪な副社長との素直な恋の始め方
真剣な表情で見つめられると、蛇に睨まれた蛙のような気分になり、喉が干上がって、声が出なくなる。
すっかり油断していたせいで、あっけなく二人の間にあった触れそうで触れない距離が消えた。
広い胸が目の前に迫り、耳元に寄せられた唇からこぼれる吐息に、ビクリと身体が反応してしまう。
押し返そうにも、ほぼ密着状態のため腕を動かすこともできない。
(ど、どうしよう……でも、何かする気はないよね? 電車の中だし、でも、え、まさか……)
間近に見上げた彼の顔が、ゆっくりと近づいて来て、パニックに陥った。
どうにかキスを免れようと思いきり俯いた耳に、からかいを含んだ声で囁かれる。
「ちょっとは、ドキドキしただろ?」
ガバッと顔を上げると、流星がニヤニヤ笑ってこちらを見下ろしていた。
「セクハラっ!」
「満員電車のせいだ」
「絶対にちがう」
「撮影の時は、もっと際どいことしただろ?」
「あれは、仕事だから!」
「いかにも悪女顔のくせに、キス未遂で動揺するくらい、初心なところがあるなんて、意外すぎるよなぁ」
「…………」
ムッとして睨むわたしの耳元で、再び流星が囁いた。
「さっきの言葉は、訂正する。偲月は、小生意気な小悪魔で、男を惹きつける……が、見かけ倒しのカワイイ悪女だよ」