意地悪な副社長との素直な恋の始め方
比較の問題
朝から、女ったらしの本領を発揮する流星のせいで、心臓に悪い通勤ラッシュを経て出社したわたしを待ち受けていたのは、残念なお知らせだった。
代表電話を受けている担当社員が急な腹痛で欠勤。先日雇い入れたばかりの派遣社員が、無断欠勤。新入社員は社外研修中。運の悪いことに、もう一人の担当社員は有給休暇中で現在沖縄にいる……。
というわけで、総務部庶務課とは名ばかりの、何でも屋であるわたしとサヤちゃんで、代表電話を取りつつ、本来の業務に含まれている社内からの問い合わせにも対応することになった。
これが超繁忙期でなければ、楽勝……とまではいかないが、何とかなったのだけれど、月曜ということもあり、朝から電話は鳴りっぱなし。
朔哉とのことをアレコレ考えてしまわないよう、仕事に集中しようと思ってはいたが、それどころか、ハードすぎる展開に時計を見る暇もなく、気づけばすでにお昼になっていた。
一時間ほど、わたしとサヤちゃんがお昼を食べる間、電話番をしてくれるという同僚の男性社員に甘え、自席でコンビニおにぎりにミネラルウォーターという質素なランチにありつく。
「疲れた……」
「口角上げっぱなしで、ほっぺの筋肉が痛いよぉ……」
「うん……うわ、サヤちゃんのお弁当、すごく……豪華だね?」
「習った技をすべて詰め込んでみました!」
サヤちゃんは、婚活の先行投資だといって、先日からお料理教室に通い始めており、お手本のようなキャラ弁を持参していた。
(婚活のだいぶ先を行っている気がするけれど、アニメ好きの男性なら喜ぶ……のかも?)
大人になっても、お子さまランチを愛しているひともいることだし、とひとり納得。
辛子明太子おにぎりにかぶりつく。
(うーん、おいしい……)
カレーの代替品として選んだのだけれど、予想外の美味しさだ。
明太子の食感、辛すぎないけれど物足りなくはない味とご飯のコラボレーションが、実にいい仕事をしている。
一個だけではなく、二個買うべきだったとちょっぴり後悔しながら再びかぶりついた絶妙なタイミングで、サヤちゃんがいきなりとんでもない質問をぶつけてきた。
「ところで偲月ちゃん。今朝、流星さんと仲良く出勤してたみたいだけど、二股?」