意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「えぅぅ、ごほっ……な、なん、ど、どこ、どう……」
一応、噂が広まるのを警戒し、会社の最寄り駅からは行動を別にしたから、誰にも見られていないはずだと油断していた。
いったいどこで目撃されたのだろうか。
電車内で一緒にいるところか。それとも双子を保育園に送り届けたあと、駅までの道のりでだろうか。
それとも。
子ども連れで手を繋ぎ、マンションから出て来るところを目撃されたのか。
最悪のパターンを想像しかけて、まさかと首を振る。
「何だか副社長の機嫌もすこぶる悪いみたいだって言うし……婚約破棄?」
「え。い、いや、それは」
「もしかして、小姑にイジメられたとか? 偲月ちゃん、見かけによらず気が弱いから、意地悪されても、限界まで我慢しちゃいそう……」
詳細は何も知らないはずなのに、ズバズバ指摘するサヤちゃんは、職業の選択を誤っているのではないかと思う。
探偵になったら、小説顔負けの推理力で現代の✖✖✖ズになれそうな気がする。
「そっか! 小姑にいじめられ、落ち込んで泣いているところへ、優しい流星さんが現れて、前からおまえのことが好きだったんだ! 副社長なんかやめて、俺にしておけよ? 的な展開……」
「ナイナイ! それはナイ!」