意地悪な副社長との素直な恋の始め方
放って置いたら、どこまでも広がりそうなサヤちゃんの妄想を慌てて打ち消す。
しかし、そこへ噂の張本人、流星が現れた。
「おい、偲月! なんで社食いねーんだよ。探しただろ」
許可も取らずに、ズカズカと来客対応用のカウンターを回り込み、わたしとサヤちゃんのいるデスクまでやって来る。
(た、タイミング悪すぎ……空気読んでぇぇ!)
「ん? コンビニのおにぎり? ずいぶんシケたランチだな。金欠か?」
わたしの心の声が彼に聴こえるはずもなく、きっと聴こえていても無視するにちがいなく、プライベートモードで一方的に話しかけてくる。
「なあ、今日の晩メシ、中華でもいいか? 俺、無性にフカヒレが食いたいんだよな。偲月が食いたいものあれば、できるだけ調整するけど」
できるだけってことは、ほぼ無視ってことだろう。
流星のようなタイプは、人に意見を訊いても、気が向かない限り、もしくは自分にメリットがない限り聞き入れない。
「好き嫌いあるか?」
「ない、です」
「じゃ、決まりな?」
横にいるサヤちゃんの鋭い視線をひしひしと感じながら、ぎこちなく頷く。
「俺、これから外出して、そのまま直帰予定だから、店で待ち合わせにしようぜ。あとで地図送るわ」
「わ、わかっ……!」
早く立ち去ってほしくておざなりに返事をしようとして、重要な事実を思い出した。
「あ、実は、スマホ壊れて……」
「は? しかたねぇな」
流星は、デスクの上にあるメモ用紙に、店名と簡単な地図を書き込む。
駅近くの繁華街にある商業ビルの名には、何となく見覚えがあった。