意地悪な副社長との素直な恋の始め方
わたしの唇の横に触れた彼の指が白いご飯粒を拾い上げ、形のいい唇へと運ぶ。
子どもに親がよくやるアレだ。
きっと、あの双子によくやっているのだろう。
別に、何のときめく要素もない……はずなのに、何故か動悸が激しくなる。
顔まで赤くなりそうで、慌てて流星から目を逸らし、もごもごと言い訳を並べた。
「あの、スマホ修理してから行くので、遅れるかも……」
「気にすんな。スマホが通じなけりゃ、いろいろと困るのは当たり前だ。そっちを優先していい。じゃあ、あとでな。しっかり働けよ? 偲月」
流星が出て行くなり、やけに真剣な表情をしたサヤちゃんが、わたしの両肩を掴んだ。
「偲月ちゃん!」
「な、何?」
「偲月ちゃんには、副社長より、流星さんの方が合っていると思う」
「……はい?」
あまりにも突然で予想外のサヤちゃんの発言に、唖然としてしまった。
「釣り合いが取れると思うの。あ、容姿という意味じゃなくてね? 容姿なら、偲月ちゃんはどっちと並んでも見劣りしないから」
「いや、そんなわけないと思うけど、でも、じゃあ……何の釣り合い?」
「生活スタイル! 経済的な格差が大きいと、結婚してから上手く行かない場合が多いって言うし。友人知人関係も、住む世界がちがうひとたちの中で、居心地の悪い思いをすることもあると思う。流星さんも、それなりに裕福なおうちに育っている感じはするけれど、副社長みたいに御曹司ってほどじゃないでしょ? 長い人生を一緒に歩むなら、背伸びしなくてもいい相手の方がラクだと思う」
サヤちゃんの言うことは、もっともだった。
実際、わたしと朔哉の共通点を見つける方が難しい。
家庭環境からして、わたしは父親が誰かわからない。有名私立学校を卒業している彼とは学歴も天と地の差。趣味もちがえば、食生活もちがう。性格だって、もちろんちがいすぎるくらいに、ちがう。
唯一、合うものがあるとすれば……。
(身体の相性……だけかも? 元セフレなんだから当然だけど。いや、でも、朔哉以外のひととしたのって、高校生の頃が最後。しかもヤリたい盛りの同級生。あれらと比較するのはどうかと思わなくもない……)
「……してみれば? 流星さんと」
「えっ!?」