意地悪な副社長との素直な恋の始め方
見るからに優しげな顔立ちのユアンさんは、かいつまんで自己紹介をしてくれた。
中国出身のユアンさんは、日本のマンガが大好き。
ついに、「本場で日本語の原作を読みたい! できればあこがれの週刊誌で!」という情熱を抑えきれなくなり、日本文化を勉強するため……という高尚な言い訳を掲げて留学。
日本に来て早々、留学生のサポートをするボランティアをしていた奥さまと出会い、ひとめ惚れ。押して押して押し倒し、結婚。結婚後は、大学や語学学校で中国語の講師として重宝され、結構稼いでいた。
転機が訪れたのは、三年前。
義父――奥さまの父親が亡くなり、彼が長年経営していたバーを閉めることになったのだが、もう常連さんにも会えなくなるし、寂しいと呟く義母の言葉を聞いて、中華料理店を開こうと思い付いた。
五人兄妹の末っ子で、小さい頃からよく母親の手伝いをしていたユアンさんの特技は料理。
友人知人を自宅に招いて手料理を振る舞うこともしょっちゅうで、評判も良かったから自信があったのだ。
講師の仕事をしながら準備を進めて一年後。
店名を、義父がやっていたお店の名前『Dark moon』にちなんで『月亮』とし、意気揚々とオープンしたのだが……。