意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「最初の頃は失敗続きで。お客さんはぜんぜん入らないし、アルバイトを雇ってもすぐ辞めてしまうし。同業者にいやがらせなんかもされ、もう辞めてしまおうかと何度も落ち込みました。でも、その度にお義母さんが優しく元気づけてくれて、何とかここまで続けられました。お義母さんを元気づけたくて始めたのに、情けないですね」
そう言って、目を細めて笑うユアンさんは、「奥さんには、毎日尻を叩かれてましたけど」と小声で付け足した。
それを聞いた流星は、「だろうな」と苦笑いだ。
「ユアンの嫁は、俺と同じゼミだったんだけど、これがまぁ、恐ろしく気の強い女なんだ。ユアンの扱いは、ほとんど奴隷。でも、コイツはぜんぜんめげなくて。そのうち付き合うようになって、大学卒業間近に妊娠。卒業と同時に結婚。いまじゃ二児の母だ」
ユアンさんは、そんな流星の評価に対し、真面目な顔で抗議する。
「奥さんは、気が強いのも見た目がそう見えるだけで、本当はとても優しくて、繊細なひとなんだよ! しかも、カワイイし。それを知っているのは、わたしだけで十分だけどね!」
「あのな、ユアン。おまえの目が、曇ってるだけなんだよ。アレのどこがカワイイんだ。猛獣だろ」
「何とでも言うがいいさ。流星も運命のひとと出会ったら、わかるよ」
「猛獣をカワイイと言うほどイカレたくないから、遠慮する」
「そんなことを言っていられるのも、いまのうちだよ! 偲月さん、今夜は流星の奢りだそうですね? どうぞ、たーっぷり食べていってくださいね?」
厨房のスタッフに呼ばれ、ユアンさんが立ち去ると、流星は「あの女が繊細だって言うなら、繊細じゃない人間はこの世にひとりもいなくなる」とぼやく。
「でも、ユアンさんの前では別人かもしれないし?」
「んなことはない。ユアンが店の客にストーキングされて、押し倒されて、あわやというところで乱入したアイツは、冷静に証拠写真をスマホに収めたあとで、相手の女を背負い投げしたんだぞ?」
「…………」