意地悪な副社長との素直な恋の始め方


ほろ酔い満腹状態で、ユアンさんに見送られて店をあとにし、急な階段を上って外へ出ると、夜風に火照った頬を心地よく撫でられる。

思わず漏れたのは、幸せの溜め息だ。


(食べた……久しぶりに、食べすぎた)


ジャストサイズのスーツのスカートがきつい。

さほど食欲もないし、スーツを汚すのが心配だから、そんなに食べられないと思っていたのが嘘のようだ。
奢ってもらう身にもかかわらず、遠慮も忘れて箸もお酒も、進み過ぎるほど進んでしまった。


「タクシー拾うか?」


紳士な流星はそう訊いてくれたけれど、食べすぎた分を消費しなければならないし、時間もまだ夜の九時と早い。


「ええと……少し歩きたいかも。食べすぎたし。駅まで歩いて、そこでタクシーを使うか電車で帰るか、もう一度検討してもいい?」

「ああ。俺はどっちでもいいから、偲月がどんだけ千鳥足になるかで決めればいい」

「そこまで飲んでないし!」

「そうか? 飲み足りないなら、もう一軒行くか?」

「や、大丈夫。飲み足りてるし、お腹一杯だし」

「満足したか?」

「とっても! お料理はみんな美味しかったし、勉強にもなったし。今度、シゲオと来ようかな」


ユアンさんのお義母さんが栄養士の資格をもっている絡みで、メニューには、料理に使われている美容や健康にいい食材や、オススメの食べ合わせなどの丁寧な解説が付いていた。

すでにチェック済みかもしれないが、シゲオが喜びそうだ。


「昼と夜では、メニューもちがうから、今度はランチタイムに来ればいい。中華粥も上手いし、飲茶もあるぞ」

「飲茶……食べてみたいかも」


エビ入り蒸し餃子、肉まん、馬拉糕(マーライコー)、ちまき等々、魅力的な絵面が脳裏に浮かぶ。


「それにしても、あの胡麻団子! すっごく美味しかった。すでにお腹いっぱいじゃなかったら、もっと食べたかったな……」


最後に出された胡麻団子、「芝麻球(ちーまーちゅう)」は何個でも食べられそうなほど、美味だった。一度に十個くらいは、軽くいけそうだ。


芝麻球(ちーまーちゅう)は、持ち帰りもできるんだ。ミミとナナが好きで、毎回土産に買う」


そう言う流星の手には、白いビニール袋が二つある。
何だかんだ言って、やっぱりいい叔父さんだ。


「月子さんにも、お土産買って帰ればよかったかも……」


さっきスマホを確認したら、月子さんから「まだ撮影中だから、わたしの分まで食べて来て~」と一メッセージが届いていた。流星の予想どおり、撮影が押していたようだ。


「買った」

「え?」

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