意地悪な副社長との素直な恋の始め方
流星は、手にしていたビニール袋の一つをわたしに差し出す。
「月子さんと偲月用だ」
「あ、ありがとう」
「どういたしまして。月子さん、ストレスから甘いものが食べたくなるらしくて、撮影中は、真夜中のコンビニで棚にあるスイーツを買い占めたりするんだよ」
いわゆる大人買いというヤツだろう。
棚にあるスイーツを買い占められるなんて、ちょっぴり羨ましい……なんて呑気に思っている場合じゃなかった。
「たぶん、これから付き合わされることになるから、覚悟しておけよ? 偲月」
「え、それは困る!」
一度くらいなら付き合ってもいいけれど、限度がある。
月子さんは、大人買いしたスイーツをたらふく食べても太らないのかもしれないが、わたしの場合、食べた分だけ確実に「脂肪」として、ついてほしくない場所に増量されるのはまちがいない。
たとえば、顔とか。
そんなことになったら、シゲオを激怒させてしまうし、モデルデビューをする前にクビになるかもしれない。
「偲月の手料理でも食べさせてやれば、スイーツ漬けはなくなるかもしれないけどな?」
「なるほど。それくらいなら、わたしにもできるかも……」
(取り敢えず、今夜帰ったら月子さんの好き嫌いを訊いてみよう。撮影時間が不規則なら、ストックできるものを作ったりして……)
月子さんには、さんざん迷惑をかけ、お世話になっている。
料理を作るくらい、お礼の内にも入らない。
「ちなみに、モデルは痩せていればいいというもんじゃないからな? 食事を抜くとか、無理な運動をするとかは、厳禁だ。暴飲暴食を控えるのは当然だけど、今日みたいに、気分が落ち込んでいるときは、美味いものを食べ、楽しく過ごしてストレスを発散することも大事だ」
思ってもみなかった流星の言葉に、足が止まる。
「ちょっとは、元気になれただろ?」
「…………」