意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「人間は、意外と単純にできてるんだ。楽しい会話しながら美味いもの食って、たっぷり眠れば、悩み事の半分は解決する。心を満たすのが難しいなら、先に身体を満たせばいい。満腹の状態で、イライラしたり、落ち込んだりするのは難しいんだぜ?」
流星はフカヒレが食べたいがために、わたしをユアンさんのお店へ誘ったのではないと知り、思わず泣きそうになった。
普段よりもメンタルが弱っているせいか、ほろ酔い程度でも涙もろくなってしまう。
涙ぐむわたしに、流星は「顔に似合わず泣き上戸かよ!」とツッコみ、軽く頭を小突く。
「顔は関係ないし」
「ま、偲月の場合あきらかに食べすぎだけどな」
「美味しかったんだから、しかたないでしょ」
「にしても、あんなに食べる女、初めて見た」
「すみませんね、遠慮とか色気とかなくて!」
「んなこと言ってねぇだろ? 一緒に食べるなら、ダイエット中だの、身体に悪いだのアレコレ言い訳して平気で残すヤツより、美味そうに完食する方がいい」
「どうも」
「今度は、ラーメン屋に行こうぜ? マンション近くの裏路地に、濃厚豚骨背脂ラーメンの美味い店があんだよ。あ、インドカレーの店でもいいかもな? そのラーメン屋の隣に、インド人夫婦がやってる店もあるんだ」
サヤちゃんは、流星と「デート」してみればと言っていたけれど、わたしにも彼にも、その気はまったくないことが判明した。
少なくとも、恋愛対象として見ている女に対して、「濃厚豚骨背脂ラーメン」を食べに行こうとは誘わないだろう。
(ラーメン、カレー……どっちも魅力的……)
酔いが回った頭で、月子さんは何カレーが好きだろうなどと考えていたら、流星が耳元で囁いた。
「あれ、うちの社長じゃねーか?」