意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「ところで、二人とも、駅へ行こうとしていたんだよね? いま迎えの車が来るから、一緒に乗って行くといい。流星くんも自宅まで送るよ」
「え、と、あの……」
当然のごとく、わたしが朔哉のマンションへ帰るものだと思っている夕城社長に、何と言うべきか。
正直に、家出中だと言えば、原因を尋ねられるだろうし、そうなったら洗いざらい話す必要に迫られそうだ。
わたしが朔哉と芽依の関係に嫉妬しているとか。
芽依が朔哉を好きなのだとか。
朔哉もかつては芽依を好きだったのだとか。
(無理。とても、話せる内容じゃない)
隠し事をするのは、褒められた行為ではない。
けれど、相手に大きなショックを与えるとわかっていて、心の準備もさせずにこんなところでいきなり話してしまうのが、正しいこととは思えなかった。
うまく取り繕うこともできず、かといってぶちまけることもできず。
口ごもるわたしを見かねたのか、流星がにこやかに、しかし嘘を交えて夕城社長のありがたくも優しい心遣いを断った。
「お気遣いありがとうございます。ですが、俺たち、駅前のカフェに寄って、少し酔いを醒ましてから帰ろうと思っていたんです。俺と偲月は帰る先が一緒なので、一人で夜道を歩かせることにはならないですし、その点はご安心ください」
(え……ちょ、ちょっと何、暴露しちゃってんのよぉぉっ!?)