意地悪な副社長との素直な恋の始め方
秘密を暴露するのに、何の心の準備もしていなかったのは、わたしの方だった。
ごまかす言葉も思い付けず、口を開け閉めして流星を見上げることしかできない。
夕城社長は、ニコニコしていた顔を一気に強張らせ、恐る恐るといった様子で訊ねてきた。
「あの、偲月ちゃん。偲月ちゃんの気持ちが一番大事だとは思うんだけど、でも……まさか、流星くんと一緒に住んでるなんてことは……」
夕城社長が盛大な誤解をしていることに気づき、慌てて説明する。
「ち、ちがうんですっ! 帰る先が一緒というのは、同じマンションというだけで! 流星さんと月子さんは同じマンションの住人で、ご近所付き合いをしていて! それで! わたしが月子さんのところにお世話になっているので、一緒に帰ることになるだけです!」
「そうなんだね。びっくりしたよ……」
あからさまにホッとした表情で胸を撫で下ろした夕城社長は、しかし眉根を寄せて再び問う。
「でも、なぜ月子さんのところにいるんだい?」
「えっと、それは、その、いろいろと事情が……」
言葉を濁すわたしの様子で、夕城社長も問い質すべきではないと判断してくれたようだ。「月子さんのところにいるなら、それほど心配する必要はないね」と微笑む。
しかし、どうにかこの場は乗り切れそうだと安堵した次の瞬間、聞こえるはずのない声が聞こえた。
「オヤジ、芽依、いつまで立ち話してるんだよ? さっさと乗れよ」