意地悪な副社長との素直な恋の始め方


(さ、くや……?)


いつの間にか路肩に停まっていた車の運転席から降り立ったのは、紛れもなく朔哉だった。
その顔は、怖いくらいに無表情だ。


「朔哉! 偶然、偲月ちゃんと流星くんにバッタリ会ってね。二人は……」

「仕事だけじゃなく、プライべートでも親しいお付き合いがあって、二人きりで食事に行くくらい親しいんだって。帰るところも、同じマンション。もしかして、お兄ちゃんは知ってたの? 月子さんと同じマンションに、流星さんが住んでること……」


夕城社長を遮って続けられた芽依の言葉に、朔哉は眉を微かに引き上げ、「知らなかった」と呟いたきり黙る。

冷ややかなまなざしが、グサグサと既にボロボロの胸に突き刺さる。


(に、逃げたい……いますぐ、走って逃げたい……)


しかし、その場に漂う気まずい雰囲気を感じていないのか、それとも、気まずい雰囲気だからこそ何とかしようと思ったのか。夕城社長が無茶な提案を朔哉に投げかけた。


「朔哉。二人を月子さんのマンションまで送って行ってあげたらどうかな? 月子さんも、その方が安心だろうし」


詳しい事情はわからないまでも、あきらかに拗れているわたしと朔哉の仲を何とか修復させようと思っての、窮余の一策だろう。

しかし、朔哉は、そんな父の心中を慮ることなく、氷点下の冷たさで切り捨てる。


「安心? オヤジが、単に母さんに会いたいだけだろ? 未練がましい。離婚して何年経つと思ってるんだ? いい加減、諦めろよ」

「え! い、いや、そういうつもりじゃ……。三年ぶりに、月子さんに食事に誘われたから、その、スケジュールの確認ができたら……と思って……」

< 252 / 557 >

この作品をシェア

pagetop