意地悪な副社長との素直な恋の始め方
恋人から始めませんか?
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楽しかった気分が一転。
落ち込んだまま、早々にベッドに入ってしまったからか、いつもより随分早く目が覚めた。
(いい匂い……)
コーヒーの香りに誘われて、リビングへ向かう。
「おはよう、偲月さん」
「お、はようございます」
(う、美しい……とても現実とは思えない……)
朝の五時でも、変わらず眩しい月子さんの笑みに、自分が映画の中にいるような心地になる。
「あの、昨夜は先に寝てしまって、すみません。何時に帰宅したんですか?」
「偲月さんたら、律義ねぇ……。男尊女卑時代の妻じゃないんだから、わたしの帰りを待たなくていいのよ? 昨夜は、まだ早い方だったけれど、それでも十二時は回っていたし、何時に帰れるかなんてその時次第。そういう日が、当分続くんだから」
「十二時……それなのに、もう出かけるんですか?」
月子さんは、黒のロングワンピース姿で、薄くではあるけれどメイクもしている。
「ええ。街中の撮影だから、人通りが少ない時間じゃないとダメなのよ。流星監督は、大げさなことをするのが嫌いでね。最小限のスタッフと機材で、パパッと撮っちゃうの。あ! そうそう、昨夜はお土産ありがとう。あそこの芝麻球、とっても美味しいのよねぇ。ついつい、全部食べちゃったわ」
その言葉が嘘ではない証拠に、リビングのテーブルの上に、メモと共に置いた白い箱は消えていた。
(真夜中に帰って来て、朝の五時でこのクオリティ……。しかも、昨日の芝麻球、十個以上あったのを完食してるのに、胃もたれとかしないの……? あらゆる点で、同じ人間とは思えない……)
「ところで、昨夜のハジメくんとのデートは楽しめたかしら? もしかして、最後の最後で楽しい気分が台無しになってしまったんじゃないかと思って……」
「え……?」