意地悪な副社長との素直な恋の始め方
会いたくて、合いたくて
******
身体を包む、ほどよいぬくもり。
規則正しく刻まれる、鼓動。
素肌に触れる自分のものではない、大きな手。
どれもすっかり馴染みのもので、わたしの穏やかな眠りを妨げない。
首筋を辿る熱く、柔らかい唇も……
(あ……!)
「ダメっ!」
身体を反転させると、ありったけの力で広い胸を押した。
無意識なのかもしれないが、朔哉はうなじにキスマークをつけるのが癖だ。
カメラテストとは、どんなことをするのかよくわからないが、メイクはされるだろうし、着替えることもあるだろう。
初対面のひとたちに、あからさまな情事の痕跡を見せびらかす趣味はない。
第一、面接にキスマークをつけて現れるモデルなんて、やる気を疑われる。
しかし、朔哉はもちろん引き下がらない。
「ダメじゃない」
わたしの腰を引き寄せて、今度は胸元へ顔を埋めようとする。
「ダメだってば!」
寝乱れた頭を押しやって、起き上がる。
朔哉も身体を起こし、苛立ちもあらわにわたしを問い詰めた。
「どうしてダメなんだ? いままで、何も言わなかっただろう? 誰かに……流星に見られるのがイヤなのか?」
「は……?」
なぜここで、流星の名が出るのか。
驚くわたしを見つめる朔哉の顔が、歪む。
「アイツとは、朝も一緒に出勤してるし、二人きりで食事にも行った」
(それって……嫉妬したってこと?)
あまりにもわかりやすい朔哉の発言に唖然としながらも、誤解を放置すると厄介なことになりそうだと思い、慌てて否定した。
「一緒に出勤したのは、たまたま月子さんと同じマンションに住んでるからで! 食事も、入社式のお手伝いのお礼ってだけで。別に、そういう対象じゃ……」
「流星に見られたくないわけじゃないとしたら、どうしてダメなんだ?」
「どうしてって……フツー、誰にだって見せたいとは思わないでしょ。恥ずかしいし」
「いままでは、恥ずかしくなかったのか?」