意地悪な副社長との素直な恋の始め方
真顔で問い返され、ついいつものように噛みついてしまった。
「恥ずかしかったから、見えないようにしてたんじゃない!」
朔哉は、そんなわたしの抗議を端から取り合うつもりはなく、当然のごとく自分の要求を押し通す。
「じゃあ、今日もそうすればいいだろう」
「だからっ!」
「何でそんなに抵抗するんだ?」
「そ、れは……」
本当のことを話すべきかも、とちらりと思ったが、実際はまだ何も決まっていない。
それに、時間に余裕のない朝にするような話でもない。
取り敢えず、話題をすり替えることにした。
「の、のんびりしている時間、あるの? 休みの日ならともかく、平日でしょ」
社内に公開されている朔哉のスケジュールは、毎日ぎっしり予定が詰まっている。
昼間は視察や商談。夜は接待に会食、海外支社との真夜中の会議など、昨夜のように飲んだくれている暇などないはずだ。
「朝ごはん、食べるなら作るけど?」
苛立ち交じりの溜息を吐いた朔哉は、少しは理性が戻ったようだ。
「食べる」と呟いて、バスルームへ消えた。
(ひとまず、これでキスマークの危険は去った……)