意地悪な副社長との素直な恋の始め方


「大型連休に入るから、芽依はホテル部門の応援に回す。状況次第ではあるが、六、七月はブライダル関連で忙しい。そのまま当初の予定通り、異動させることになるだろう」


芽依は、帰国後もともとホテル部門に再配属される予定だったから、不自然な異動ではない。
むしろ、秘書課にいる方が不自然だった。

けれど、どうしてもわたしのせいのように思えてならない。


「それで……芽依は、大丈夫なの?」

「芽依の能力を活かせるのは、秘書課ではないし、本人がやりたい仕事も秘書ではない」

「でも、」

「家族だからこそ、適度な距離が必要だ」


それは、仕事上でということなのか、それともプライベートも含めてなのか。
短い説明では、わからない。

かと言って、ここで問い質し、聞きたい答えを得たとしても、信じられる気がしない。
そんな自分がイヤで、でも、どうしようもない。


「あの、あとはわたしが片付けておくから、朔哉は気にせず先に出て」


気まずい沈黙に耐え切れず、食洗器にお皿たちを放り込み、やっぱりコーヒーを飲もうと戸棚から豆を取り出す。

電動ミルが豆を挽く音が途絶え、朔哉の声が重くのしかかる沈黙を破る。


「偲月」


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