意地悪な副社長との素直な恋の始め方
顔を合わせたくないと思いながら振り返ると、朔哉は思ったよりも近くにいて、俯くわたしの顎を指で押し上げた。
「いつ、帰って来るんだ?」
目を合わせて、ストレートに訊ねられ、答えられずに視線をさまよわせる。
「本当に、帰って来る気はあるのか?」
本当は、いますぐにでも帰りたい。
ひとりで眠るのは寂しいし、ひとりで目覚めるのはもっと寂しい。
向かい合って食べる朝食、他愛のない言い合い、無理に縮めようとしなくても、近づける距離。
当たり前になりかけていたすべてを、いますぐ取り戻したい。
でも、感情のままに「帰る」と言いたくなる気持ちを理性が押し止める。
「何を……考えてる?」
掠れた声で呟く朔哉は、探るようにわたしを覗き込む。
数えきれないほどキスをして、キスよりもっと親密なことだってしているのに、頬は熱くなり、心臓が落ち着きなく鼓動を速める。
「そんな顔をするくせに、どうして離れようとするんだ?」
「そ、んな顔って、べつに……ぅ!」
開いた唇は、噛みつくようなキスで塞がれた。
ウエストを捕らえた手は軽々とわたしを運び、彼がキスしやすい高さ――ダイニングテーブルの上に下ろす。
さっき、もう出ると言ったじゃないか、とか。
時短メイクでも、間に合わなくなるじゃないか、とか。
こちらだけが乱されるのは不公平だ、とか。
抗う理由は、思いつくそばから、絡められた舌、太腿を這い上がる手の熱さに、溶けて消えていく。
渇ききった喉が水を欲するように、もっと、と求める気持ちは際限がない。
こんな場所で、と思う気持ちに羞恥心を刺激され、それがまた欲望を煽る。