意地悪な副社長との素直な恋の始め方
朔哉は目を見開き、唖然とした表情で……要求した。
「悪い……よく、聞こえなかった。いま、何て言った?」
「に、二度も言わせないでよ!」
「一度言ったんだ。二度も、三度も変わらない」
「……で」
「で?」
恥ずかしさと居たたまれなさで、身悶えしたくなりながら、やや投げやりに繰り返す。
「デート、しようって言ったの!」
「なぜ?」
「な、なぜって……」
そんな返しは想定外だ。
何をどう説明すればいいのか。
ただでさえ混乱している頭では、上手く考えをまとめられない。
「いまさらだろう? 一緒に暮らしていて、キスもすればセックスもする仲で、結婚とちがうのは、法的に結びついているかどうかだけだ。それなのに、デート?」
「だから……、なの」
あの夜、わたしたちが一足飛びに飛び越した時間と距離が、必要だった。
シゲオが言うように、一度リセットし、家族でもなく、セフレでもなく、恋人でも、婚約者でもない存在になる。
それから、お互いのことを少しずつ知って――心地よい距離を測り、ゆっくりと相手の存在が心に、身体に浸透していく。
そんな風に、『いまさら』という言い訳で、逃げることなく向き合ってみたかった。
異なる部分も重なる部分も、ひとつひとつを確かめて、時間をかけて馴染ませて、『わたしたち』になりたい。
そうしたら、簡単にはひび割れたりしない、しっかりした関係が築けるんじゃないか。
そう思う。