意地悪な副社長との素直な恋の始め方
一歩進むと、二歩下がる
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「何か、いいことでもあったのか?」
「え?」
モデル事務所へと向かうタクシーの中、『絶対勝てる!面接術』という動画を見入っていたところ、流星にそんなことを言われ、目を瞬いた。
「顔が、にやけてる」
「え!」
そんなはずはない、と頬を触ってみるが、フツー。
どちらかというと、眉間にシワが寄っていたのではないかと思うのだが。
「昨夜は、朔哉のところへ戻ったんだろ? たっぷりイチャイチャしてきたのか?」
「ち、ちが、イチャイチャなんてっ……」
していない、と言おうとして、朝のキスを思い出す。
「したのか」
「き、キスだけだし!」
「詳細は訊いてねーよ」
恥ずかしさで顔どころか、全身が熱くなる。
「ま、昨日までの不幸のドン底にいるような顔をしてるよりかは、マシだな」
「ふ、不幸のドン底って……そんな酷い顔してな……」
「自分ではわからないもんなんだよ」
「…………」
「で、アイツ、偲月が転職してモデルやること、認めたのか?」
「……まだ、話してない」
「はぁっ!? 何やって……。なるほど。話す暇もないくらい、忙しかったと……」
呆れたまなざしを向けられ、必死に否定する。
「ちがうから! 朔哉が酔って寝ちゃってて、今朝もそんな話をしている時間の余裕はなくて!」
「本当に、それだけが理由かよ? 何となく、言いづらくて先延ばしにしただけじゃねーのか?」
図星だ。
「そんなこと……」
「あのなぁ……そんなに俺と朔哉をガチで喧嘩させたいのかよ? アイツ、ただでさえ俺に反感を抱いてるのに、偲月が自分ではなく俺を頼りにして、相談に乗ってもらったとわかったら、激怒するだろ」
「それは、ちゃんと説明するし……」
「いつ?」
「め、面接に受かって、モデルの仕事を始めることになったら言おうと……」
金曜日のデート、で話すのはよくないような気もするが、かと言って電話やメールで済ますような話でもない。
「今日から始めてくれと言われたら、どうするんだよ?」
「え。まさか、そんなこと……」
「あり得るだろ」
「でも、それはできないって話して……」
「一度断ったら、次のチャンスが貰えなくなるとしても?」
その言葉に、ドキッとした。