意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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「本当にありがとう、偲月さん。もう辞表を出すしかないと思っていたの。この世に神様はいるのね」
ハラハラと涙を流し、まるでわたしが命の恩人であるかのように何度もお礼を言うのは、『avanzare』というブランドのプレスを務める中野さんだ。
「いえ、こちらこそ……気に入ってもらえるといいんですけど」
取り敢えず、撮った画像を彼女の上司である、ブランドデザイナー兼社長に見せ、OKが出たら、本番――カタログや雑誌、WEBなどに載せる写真を撮ることになるらしい。
「気に入るに決まってるわ! これでダメなら、本当にもう辞める……」
そう中野さんが思い詰めるのには、それなりの事情がある。
今日まで、オーディションや個人の伝手などを使い、半月で五十人近くのモデルで撮影を行ってきたが、頑固でこだわりの塊であるデザイナー兼社長にことごとくダメ出しをされ、彼女の忍耐力も気力も限界だったのだ。