意地悪な副社長との素直な恋の始め方


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「本当に、偲月さんのために作ったのかと思うくらい似合ってるわ。うちの服、よく着てくれているの?」


だいぶ顔色のよくなった中野さんにそう聞かれ、気まずいながらも正直に告白する。


「いえ、あの……実は、普段こういうブランドものには、あまり縁がなくて。これは、知り合いがショップのひとに頼んで、見繕ってもらったらしいです」

「ってことは、そのひとは偲月さんのことをよくわかっているのね。サイズだけでなく、似合う色や雰囲気、カッティング。うちの服が完璧に似合うと見抜くなんて、アパレル業界のひとなの?」


不思議がる中野さんに答えたのは、流星だ。


「偲月を着せ替え人形にしてるのは、コイツの恋人だよ。アパレル関連の仕事じゃないけど、目が肥えてるからな」

「そうなんだ。いいなぁ、羨ましいなぁ……。彼女に似合うものというよりも、自分が好きなものを着せようとする男の人もいるでしょう? 自分が一番キレイに見える恰好を知ってくれているなんて、ステキなカレシなのね」


中野さんの言葉には、実感が籠っていた。
もしかしたら、実際にそういう経験をしたのかもしれない。


「それにしても、ハジメくんが褒めるなんて、相当センスあるのね? 偲月さんのカレシ」


所長のからうような言葉に、流星はぶすっとして言い返す。


「べつに……」

「もー、相変わらず天邪鬼なんだから。仲良くしたいくせに」

「そういうんじゃない! やめろって!」


ムキになって言い返す流星を笑い、時計を一瞥した所長は、「無事、撮影も終わったし、ゴハン行きましょうか!」と言い出した。


「でも、わたしデータを社長に送らなくちゃ……」


これから家に戻って、さっそく報告するという中野さんに、所長はしかめ面でお説教する。


「中野ちゃん。ずっとまともに食べていないでしょ? そんなゲッソリした顔で、いい仕事ができるはずがないわ。美味しいものを食べながら、頑固なあの社長の頭をカチ割る写真をみんなでじっくり選びましょ。ついでに、偲月さんの面接もするわ」

「いまさらやるのかよ?」


呆れる流星の耳を引っ張り、所長はにっこり笑った。


「当たり前でしょ。だって、まだ自己紹介すらしていないんだもの。わたしは、望月 花夜(もちづき かよ)。よろしくね?」


(撮ってみたい……そう思わせるから、モデルだったんだよね、きっと)


所長は、月子さんとはまたちがったタイプの美しさを持っている。
エネルギーに満ち溢れた、美しい雌豹のような野性的な魅力は、日本人離れしていた。

いつか、一枚撮らせてもらおうと思いながら、差し出された手をしっかりと握り返す。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


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