意地悪な副社長との素直な恋の始め方
「偲月さんに、お仕事を頼む件についても、夕城と話したんだけれど、副業として認めるのは難しいようね。わたしの写真を撮ること自体は問題がないけれど、その写真を使った本が出版されるとなると……」
明らかに競合他社の仕事だとは言えないが、『YU-KIホールディングス』傘下には、ブライダルやトラベル関連の出版社があり、月子さんが現在撮影中の流星監督の映画のスポンサーにはライバル企業が含まれている。
本の製作自体は問題ないとしても、広告を打つとなれば微妙なところだ。
「わたしも、いまの仕事を続けながらでは、無理だろうなと思っていました。退職して、モデルのお仕事をしたり、日村さんのところでアルバイトをしたりしながら、月子さんを撮ろうと考えて、準備しているところです」
「そうね……そうなるわよね。でも、依頼したわたしが言うのも、どうかとは思うけれど……偲月さんにとって、大きな転機になるわ。本当に、いいの?」
「はい。月子さんを撮りたいんです。もし、お断りしたら、きっと……一生、後悔すると思います」
好きなことをやる苦労と、好きなことを諦める苦労。
どちらか一方しか選べないのだとしたら、やはり好きなことをやる苦労を選びたい。
「そこまで考えてのことなら、わたしとしても心おきなくお願いできるわ。この先、ある程度、偲月さんの時間を拘束することになるだろうから、きちんと契約書を作るわね? 本の出版については、わたしの友人が編集者をしているところに頼むつもり。そちらの契約についても、きちんとしましょう。最高のものを作るために、協力してね?」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ふふ、偲月さんと一緒にお仕事ができるなんて、嬉しいわ。ところで」
麗しい笑みを見せた月子さんは、一転して心配そうな表情になる。
「朔哉には、話したの?」
「……いえ。まだ、です」
「話すなら、できるだけ早い方がいいわ。夕城には、口止めしたけれど、噂はどこから広がるかわからない。偲月さんの口から説明する前に、朔哉の耳に入ったら……機嫌を損ねると思うの」
「明日、朔哉と会う予定なので、そこできちんと話そうと思っています」
「そう、それなら大丈夫ね」
(大丈夫かどうかは、話してみないとわからないけど……)
朔哉がどんな反応をするのか、まったく読めない。
あっさり受け入れ、応援してくれるかもしれないし、激怒し、大反対されるかもしれない。
けれど、いずれにせよ、進み始めた道を引き返すつもりはなかった。
中野さんたちが、頑固な上司を説得したように、粘り強く、頑張るしかないだろう。
(もしも、朔哉が受け入れられないと言ったら……)
「偲月さん。もし、何か困ったことがあれば、いつでも相談してね?」
話し合いが決裂した場合を考えかけたが、心配そうにこちらを見つめる月子さんに気づき、最悪の事態は、そうなった時に考えることにした。
「はい、ありがとうございます」