意地悪な副社長との素直な恋の始め方
デートする以前の問題
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明日の金曜日、何がなんでも定時に退勤するため、朝から全力疾走で溜まっている仕事を片付けた。
ランチタイムは、減りに減ったお腹をラムカレーで満たし、目下最大の懸案事項である「デート」について、スマホでリサーチする。
オススメスポット十選、彼をその気にさせるデートプラン、好感度百パーセントのコーディネート等々。世の中の「恋人たち」が利用しているであろう情報の洪水に、溺れそうだ。
ここは、エキスパートの意見を伺ってみようと思い、横で豆のカレーを食べるサヤちゃんに訊いてみた。
「ねえ、サヤちゃん。お目当ての人とデートするときって、どこで、どんなことするの?」
「え? 偲月ちゃん、急にどうしたの? セレブな副社長も、イケメンな流星さんも気に入らなくて、新しい彼でも見つけたの? もしかして、今度のお相手は……純情で女性慣れしていない、デートプランも立てられないような年下の……」
サヤちゃんが驚くのも無理はない。
が、妄想が過ぎる。
「ちがう!」
「じゃあ、何で? 副社長も流星さんも、女性を喜ばせるデートプランなんて、いくらでも知ってそうじゃない」
流星に関しては、実際に体験したからいわゆるごく一般的な「デート」に慣れていそうだとは思ったけれど、朔哉の場合はわからない。
過去の二度のデートは、主にわたしが行きたいところへ行っただけだし、朔哉が健全なデートをしている姿なんて、想像もつかなかった。
「誘ったのは、わたしだから……」
「どっちを?」
「どっちって、流星さんとはそういう関係じゃないし」
「でも、朝は一緒に出勤。昨日も一緒に帰ってたよね?」
「朝は……偶然で、昨日はちょっと頼みごとがあって……」
「ふうん? でも、すごくお似合いで、いい雰囲気に見えたけど? 流星さんは、偲月ちゃんのこと好きなんじゃないのかなぁ」
「そんなことないでしょ」
冗談めいた告白をされ、からかい交じりに女子扱いされてはいるけれど、そういう距離の縮め方はされていないと思う。
わたしが、ついドキドキしてしまうのも、相手の問題ではなく、単にそういうシチュエーションや扱いに慣れていないからだ。
「そうかなぁ……」
流星推しのサヤちゃんは不満そうだっが、わたしの要望の応え、夜景が見えるレストランや隠れ家的レストラン。カップル向けにソファーの個室があるダイニングバー、気軽に立ち寄れるショットバー、はたまたじっくりまったりできる渋好みが通うジャズバー。お酒の種類が豊富な居酒屋に、海鮮が美味しくイキのいい店員ぞろいの賑やかな居酒屋など、さまざまなタイプのお食事処を教えてくれた。
さらには、夜の散歩に最適な、ライトアップが美しい公園に巨大観覧車、上映中のオススメ恋愛映画、身体を動かせるアミューズメントパークなど、食べる以外のプラン付きだ。