意地悪な副社長との素直な恋の始め方
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ライトアップされた樹木の合間にある、何を表現しているのかよくわからないオブジェや噴水。低木の陰に隠れて座れるよう意味深に配置されたベンチ。
デートスポットに選ばれるだけあって、暗がりに見える影は、すべてカップルだ。
ひとりで歩き回るのは場違い感が拭えないけれど、目的を果たすのためには些細な問題だ。
(カジュアルダイニングから歩いて十五分か。ちょっと遠いかな? あんまり飲まないようにしないと……)
スマホの地図アプリを睨み、いま歩いて来た以上の最短ルートはないのを確かめる耳が、無遠慮な意見を拾う。
「しっかし、本当にデートの下見なんてするヤツいるんだな? 驚きだぜ」
無視しようかとも思ったが、ムッとしたので振り返って言い返す。
「……何事も、準備が大事でしょ。計画性のない流星さんには、必要ないのかもしれないけど」
偶然、退社時にエレベーターで乗り合わせた流星は、明日のデートプランを練るため、まっすぐ月子さんのマンションに帰らないわたしを訝しみ、勝手にあとを付いて来た。
勘のいい、そしてデートなんて何百回もしたことがある彼には、説明するまでもなく、わたしの目的はバレバレだ。
「計画性がないんじゃなくて、敢えて計画しないだけだ。いくら完璧に準備しても予想外の出来事は起きる。だったら、最初からそれも含めて楽しめばいいし、その方が印象に残るだろ?」
「いい印象とは限らないじゃない」
「それもいい思い出。時間が経てば、笑い話になる」
「二度と思い出したくないかもしれないじゃない」
「あのなぁ……なんでそう、マイナス思考なんだよ? ん?」
「マイナスじゃなく、慎重なだけ」
(次は……観覧車。あ! あれか……うわ、大きい……)
ライトアップされた公園の奥には、輝く巨大な円がある。
観覧車といえば、高校生の頃にカレシと乗ったのが最後だ。
あの時は昼間で、しかも相手が高所恐怖症だということが発覚。
震える彼の手を握って励ました、甘酸っぱさとは程遠い思い出しかない。
(所要時間十五分。密室だから、人の目を気にせずいられるけど……)
容姿端麗な朔哉といるだけで、人目につくのは必須だ。
誰にも見られずに済む分、夜景の見えるバーよりも、こっちの方が落ち着ける気がする。
(でも、朔哉は子どもっぽいって思うかな……?)
大学生の頃、彼が連れ歩いていたのは年上の世慣れた感じの女性ばかりだった。
芽依とも、きっと高級フレンチ、クラシックコンサート、ホテルのバー、なんていう大人なデートをしていたと思われる。
サヤちゃんが教えてくれたお店はどれもステキだし、デートスポットも人気の場所ばかりだけれど、やはり庶民的だ。
本当にそれで彼を喜ばせ、満足させられるのか。
まったく自信が持てない。